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佐藤 教誘さん

さとう・のりひで|昭和18年生まれ、佐藤木材工業株式会社社長。父が創業した会社を平成2年に受け継ぎ、現職。森林認証制度であるSGEC(Sustainable Green Ecosystem Council)の認証を受け、集成材の製造販売を行っている。来年の東京オリンピックでは持続的な木材を使う方針が決まり、佐藤木材ではメインスタジアムの屋根やテニス競技場の施設に材を提供している。

林業に携わる人が誇りを持って働ける山にしていきたい

紋別市上渚滑地区。オホーツク海を望むこの小さな町から、持続的な林業という誇りを胸に、世界基準の森づくりと木材生産に取り組む企業がある。佐藤木材工業株式会社。創業87年の3代目・佐藤教誘社長に、社員の集会場として立てられ、今は地域住民の文化活動にも使われている歴史ある建物のニ階で、びっちり2時間お話を伺った。取材に伺ったのは、北海道大学農学部農業経済学科小林ゼミの3、4年生の9名。農村振興・地域づくりを学ぶ彼らが、佐藤社長から何を聞き出したのか。


主軸であった事業からの転換

 

―――佐藤木材の創業について教えて下さい

佐藤さん:弊社は、昭和7年に創業。元々は下駄屋を営んでいました。私は小学校の時も中学校の時も下駄履きで学校に通っていて、高校ニ年生の時に上京した時に周りがみんな革靴でびつくりしましたね。当時は山で炭を作っていたのですが、炭は固い木を使います。シナノキなど広葉樹でも柔い木は残ってしまいます。そのシナノキを買って下駄を作ったというのがそもそもの始まりなんです。その後下駄の減産の状態の中で、外食産業が伸びてきて昭和42年に割り箸を作り始めました。当社はピークが平成3年から5年くらい、製造量では日本の消費量の5パーセントを占めていました。私が代表になったのが平成2年。森林資源が減少し円高で海外から製品が入ってきて当社の下駄も箸も競争力をもどんどん失っていた時期でした。下駄は昭和59年に、割り箸は平成11年に生産をやめました。当時、割り箸の製造のためスタッフが180人いて、その方達の進退には本当に心を揉みました。

―――それからはどんな事業をされていたのですか
佐藤さん:間伐材を使ってなにかできないかと考えました。割り箸を製造していた頃にスーパーのダイエーさんからアースディに合わせて間伐材で割り箸を作ってくれないかという話があった。バイヤーさんが来て、「佐藤さん、この間伐材の割り箸というのはうちの会長からの直々の命令なんだ」と言われました。3月に決まり、5月までに袋入れまで全部やってくれとオーダーを受け、何とかやり遂げました。ダイエーさんの狙いは「ダイエーは環境というものを重視した企業なんですよ」、というPRでした。その時に私は、環境というものが世の中のトレンドなのかな、と気づきました。平成10年頃、運良くミサワホームさんと取引をすることができて、平成12年に集成材の製造を始めていきました。平成16年頃、住友林業さんの常務取締役を退任された真下正樹さんから日本の林業を、競争力のあるものにするために、森の「管理」と森を「作る」ということをやっていかないといけないと言われた。その方がSGECの森林認証をやっていて、教えていただきました。道庁も積極的な姿勢で、そのために私はオホーツク管内の市町村をすべて回りました。そのなかで「お金が掛かるんでしょ。採算は合うんですか?」と言われた。わたしは採算は合わないかもしれないけれど林業に携わる人がこれだけ働いてる地域なので、自分達が関わっている山や職場がどういう状況かわかっていないといけないと思うんです。働いている人が誇りを持って働けるような山にしていかないと。そんな思いに呼応してくれたのが西紋別(※)の市町村だったんです。

―――林地残材の活用もおこなっていくんだとか
佐藤さん:はい、そうです。直近では林地残材を活用して、チップを製造し、燃料とする事業をこれからおこなっていこうとしています。建築用材になるような丸太だけではなく、山で使えない木っ端となっている残材も有効活用することで、さらに環境に負荷をかけない取り組みができるのではないかと思っています。

 


森林認証で農業にも
付加価値をつけることができたら嬉しい

 

―――林業は、農業や漁業に比べて消費者にとって身近に感じられる機会が少ないような気がします。消費者に身近に感じてもらうためのお考えがあれば教えて欲しいです。
佐藤さん:私は森林認証は林業だけのものにしては駄目だと思っています。一番の恩恵を受けているのは海。ニ番目は農。三番目に林業、だと思います。森林認証の審査項目の中にも「生物多様性。土壌及び水質資源の維持」というのがあります。100%できてはいないがそういう志を持っていないといけないと思います。その恩恵を海が受けている。農業もそうです。紋別の営農用水は川の水。20キロも上流の山の一番いい水を乳牛に飲ませています。牛乳パックなどに「この牛の飲料水である営農用水は100%森林認証の山から流れた水です」。ということを本当は謳ってほしいくらいですね。会社の代表としてはいかがなものかなと思うが、私は結果として商売になればよいというくらいで、ならなくてもいい、とも思っています。自分のところの金儲けだけじゃない、木材業で生き残るために土壌や水質資源の維持をしていきたいです。森林認証で農業にも付加価値が付けられたら、自分の商売がうまくいくのと同じくらい嬉しいですね。

―――社内ではどのようにその思いを伝えてらっしやるんですか
佐藤さん:弊社のスタッフは大学を出ていたりする人ばかりじゃないです。家が貧しく、教育をきちんと受けられなかった人もいる。それでも頭のいい人ってたくさんいるんですね。私が残念に思うのは、今の森林のなかで自分のやっていることに対する誇りを持っている人が少ないこと。そこに誇りを持ってもらいたいと思っています。自分の働いている姿を家族に見せたいと思える人を育てていく。先端的な技術や機械も使いなすし、環境や社会との関わりも意識してもらうようにしています。そうしてスタッフに技術も地域のことも伝え続けることで、自分達がやっていることがこの地域の誇りにつながっていくと思ってほしい。森林認証を受けたことをスタッフも、地域も喜んでほしいですね。


※西紋別地区・・・紋別市および紋別郡滝上町・興部町・雄武町・西興部村からなる地域

\この記事を書いた人/
北海道大学農学部農業経済学科小林ゼミ。
取材者は李 澍・中牟田直英(4年生)、浅嶋詩乃・仰木晴香・倉田光莉・中森瑞歩・後藤寛満・佐藤敦志・松永ー真(3年生)。

オホーツクテロワール
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